Toma(とま)のゲーム日記

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「紙の冒険」へようこそ!ドラゴンクエスト ゲームブックの遊び方と色褪せない魅力

はじめに:あなたの選択が未来を創る

ゲームの世界に没頭する喜びは、何も画面の中だけではありません。かつて、読者自身が物語の主人公となり、その選択が運命を左右する「ゲームブック」というメディアが、多くの冒険者を魅了しました。特に、国民的RPGドラゴンクエスト」シリーズのゲームブックは、ファミコンブームと時を同じくして登場し、紙の上で繰り広げられる壮大な冒険として、今もなお語り継がれています。今回は、そんなドラゴンクエストゲームブックの基本的な遊び方から、各シリーズの魅力、そしてビデオゲームとは異なるユニークな体験について深掘りしていきます。

 

ゲームブックは、通常の小説とは異なり、本文が細かく区切られた「パラグラフ」と呼ばれる段落で構成されています。読者は、物語の途中で提示される選択肢や指示に従い、「右の道を行くなら54番へ、左の森に入るなら39番へ」といった具体的なパラグラフ番号へ移動しながら読み進めます 1。これにより、物語の展開や結末は読者の選択によって千差万別に変化します。時には、誤った選択が「DEAD END(ゲームオーバー)」を招くこともありますが、それもまた再挑戦への意欲を掻き立てる要素となるのです 1。サイコロを振って運命を試したり、過去の選択が未来に影響したりと、ランダムな要素が加わることで、予測不能なスリルと深い没入感が生まれます 1。まさに、紙媒体で体験できるロールプレイングゲームRPG)やアドベンチャーゲームと言えるでしょう 1

 

 

ドラゴンクエストゲームブックシリーズの誕生背景

 

1980年代後半、ファミリーコンピュータファミコン)の爆発的普及とともにゲームブックは一大ブームを迎えました。当時のゲームソフトは比較的高価で、誰もが気軽に多くのソフトを購入できる状況ではありませんでした。そんな中、ゲームブックは、ファミコンゲームの「雰囲気」をより安価で手軽に体験できる代替メディアとして注目されたのです 6

 

ドラゴンクエスト」シリーズもこの波に乗り、複数の出版社からゲームブック化されました。双葉社からは「ファミコン冒険ゲームブック」シリーズの一環として、そしてエニックス(現在のスクウェア・エニックス)からは「エニックスオリジナルゲームブック」シリーズとして、それぞれ独自の解釈とシステムで刊行されました 6。このゲームブック化は、単なる派生商品という以上の意味を持っていました。高価なビデオゲームを頻繁に購入できない層にとって、ゲームブックは「安価で手軽にゲームの世界に浸れる」手段として機能しました。これにより、ビデオゲームの体験がより広範な層に届き、コンテンツの多角的な展開と市場拡大を促す初期のメディアミックス戦略として重要な役割を果たしたと考えられます。

 

冒険の基本:紙と鉛筆で紡ぐ物語

 

ドラゴンクエストゲームブックをプレイする上で、読者はいくつかの基本的なルールとツールを使いこなす必要があります。

 

  • パラグラフ移動と選択肢: ゲームブックをプレイする上で最も基本的な行動は、パラグラフ間の移動と選択肢の決定です。物語は番号が振られた短い段落で構成されており、読者は現在のパラグラフを読み終えると、そこに示された指示に従って次に読むべきパラグラフに移動します 1。例えば、「右の道を進むなら100番へ、左の森に入るなら200番へ」といった具体的な選択肢が提示され、読者は自らの意思で物語の方向性を決定します 4。この読者の選択こそが、物語の展開を大きく変化させ、最終的な結末へと導くゲームブックの核心的な要素となります 2。読者は単に物語を追体験するだけでなく、自らが主人公として物語を「創造」していく感覚を味わうことができます。
  • サイコロを使った運命の判定: 多くのゲームブック、特にロールプレイング要素が強い「ドラゴンクエスト」シリーズのゲームブックでは、物語の進行にサイコロが重要な役割を果たします 1。例えば、敵との遭遇時にはサイコロを振って攻撃の命中判定を行ったり、特定のイベントの成否を「運試し」としてサイコロの出目で判断したりします 1。これにより、物語に予測不能な要素が加わり、プレイヤーは毎回異なる状況に直面する可能性があります。特筆すべきは、『ドラゴンクエストIII』のエニックス版に採用されていた独自の戦闘システムです。このシステムでは、勇者の攻撃時にサイコロを振る代わりに、本を適当にめくり、そのページの端に書かれた0から3の数値を利用します。この数値に勇者の攻撃力を掛け合わせ、そこから相手モンスターの守備力を引いた数値が、敵に与えるダメージとなります 8。このアナログな乱数生成方法は、ビデオゲームが内部で処理する乱数とは異なり、プレイヤーに「自分の手で運命を操作している」という直接的な感覚を与えます。物理的なサイコロを振る行為や、本のページをめくるという触覚的なインタラクションは、結果が完全にプログラムに委ねられるビデオゲームとは異なる、より原始的で没入感のある体験を生み出します。
  • 冒険の書」の活用: 「ドラゴンクエストゲームブックシリーズにおいて、「冒険の書」はプレイヤーの分身であるキャラクターの成長と冒険の記録を担う重要な要素です 1。これは、ビデオゲームにおけるセーブデータやステータス画面に相当し、プレイヤーは専用の記録用紙に鉛筆などで情報を手書きで記入し、物語の進行に合わせて更新していきます 1冒険の書には、HP(ヒットポイント)、MP(マジックポイント)、攻撃力、守備力、経験値、ゴールドといったキャラクターの能力値や所持しているアイテム、訪れた場所、達成した特定の条件(フラグ)などが記録されます 8。ゲームオーバーになった場合でも、この冒険の書に記録された情報をもとに、直前のセーブポイント(記録した場所)から冒険をやり直すことが可能です 1。これにより、プレイヤーは失敗を恐れることなく様々な選択肢を試すことができ、試行錯誤を繰り返しながら物語の最適なルートを模索する楽しさを味わえます。この手書きで記録する行為は、プレイヤー自身の「痕跡」を物語に残すことを意味し、物語への没入感を深めます 。
  • アイテムとゴールド: 「ドラゴンクエスト」のゲームブックでは、原作のビデオゲームと同様に、冒険中に獲得したゴールド(お金)を使って町で様々なアイテムを購入し、冒険を有利に進めることができます 8。これらのアイテムは、プレイヤーのキャラクターを強化したり、特定の状況を打開したりするために不可欠です。アイテムの種類は多岐にわたり、例えば、HPを回復する「薬草」や「上薬草」、「特薬草」、毒を治療する「どくけしそう」、MPを回復する「まほうのせいすい」や「けんじゃのせいすい」といった回復系アイテムがあります 。また、一度訪れた町へ瞬時に戻るための「キメラのつばさ」のような補助アイテムも存在します 。戦闘においては、「ねむりの杖」で敵を眠らせたり、「さじんのやり」で幻惑状態にしたり、「まふうじの杖」で呪文を封じたりするなどの弱体効果を与えるアイテムや、直接攻撃に使える「いかずちの杖」や「ほのおのツメ」、「王者の剣」、「雷神の剣」といった攻撃系アイテムもあります 。アイテムの適切な管理と戦略的な使用は、ゲームブックの冒険を成功させる鍵となります。
  • ゲームオーバーと再挑戦: ゲームブックの冒険では、誤った選択をしたり、戦闘に敗北したりすることで「DEAD END(ゲームオーバー)」となる場面が訪れることがあります 1。これは一見すると冒険の終わりを意味するように思えますが、ゲームブックにおいては、むしろ物語を深く掘り下げるための機会として機能します。通常、ゲームオーバーになった場合でも、プレイヤーは直前のパラグラフや「冒険の書」に記録した場所から、再び冒険をやり直すことが可能です 1。この「死んで覚える」システムは、プレイヤーに論理的な思考力やリスク管理の重要性を促します。一度失敗した選択肢を避け、別のルートを試したり、得られた情報(この選択肢は危険だった、このアイテムは必要だったなど)を活かして戦略を練り直したりすることで、未踏のルートや隠された要素を発見する楽しさにつながります 1。ゲームブックにおけるゲームオーバーは、プレイヤーの失敗を罰するだけでなく、むしろ「物語の構造を理解するためのヒント」として機能します。

 

各シリーズの冒険:それぞれの特色

 

ドラゴンクエスト」のゲームブックシリーズは、各作品が独自の魅力とシステムを持っていました。

 

ドラゴンクエストIゲームブック:ロトの伝説の始まり

 

ドラゴンクエストI』のゲームブックは、双葉社エニックスという異なる出版社からそれぞれ独自のバージョンが刊行されました。双葉社からは「ファミコン冒険ゲームブック」シリーズの一環として『ドラゴンクエスト 復活の勇者伝説』が1986年12月に、そしてエニックスからは「エニックス文庫」として『ゲームブック ドラゴンクエスト』が1989年11月29日に発売されました 。

 

 

 

エニックス版は上・下巻の2巻構成で、合計280ページにわたるボリュームがありました 。この版では、主人公に小説版と同じ「アレフ」という名前が冠されており、物語は原作のビデオゲームの世界観を踏襲しつつも、ゲームブックオリジナルの要素が強く盛り込まれていました 。一方、双葉社版『復活の勇者伝説』は、原作のストーリーに比較的忠実な内容で、コンピュータRPGの雰囲気を紙媒体でよく再現していると評されました 6

 

エニックス版『ゲームブック ドラゴンクエスト』の著者は早坂律子氏です 。双葉社版『ドラゴンクエスト 復活の勇者伝説』の著者は樋口明雄氏、イラストレーターはStudio Hardが担当しました 。エニックス版の物語は、原作の世界観を基盤としながらも、随所にオリジナルの要素を強く取り入れている点が特徴です 。これは、原作の『ドラゴンクエストI』がシンプルな物語であったため、ゲームブックの作者が物語に新たな要素やキャラクター、展開を自由に加える余地が大きかったためと考えられます。

 

ドラゴンクエストII 悪霊の神々ゲームブック:仲間との壮大な旅

 

ドラゴンクエストII 悪霊の神々』のゲームブックも、『I』と同様に双葉社エニックスからそれぞれ刊行されました。双葉社からは「ファミコン冒険ゲームブック」シリーズとして『ファミコン冒険ゲームブック ドラゴンクエスト2 悪霊の神々(上・下)』が1987年9月1日に発行され、樋口明雄氏が著者を務めました 。エニックスからは『ゲームブック ドラゴンクエストII』が1989年に上下巻構成で発売されました 。

 

特にエニックス版『ドラゴンクエストII』は、シリーズの中でも「突出して高い評価」を受けていることで知られています 。その評価の高さは、単にゲームの追体験に留まらない、物語の深みとキャラクター描写の豊かさに起因しています。読者からは「ゲームでは直接描かれていない主役3人のそれぞれの個性や絶妙な人間関係、それに魅力的な登場人物たち、ゲームではなかったオリジナルエピソードが、本元のゲームの世界に想像を広げさせてくれた」と絶賛され、中には「ゲーム版をも凌駕した」「この設定でテレビゲームを作り直してほしい」という声まで上がるほどでした 。双葉社版は、このシリーズで初の2部作構成となり、大海原を跨いだ壮大な冒険が描かれました 。

 

 

双葉社版『ドラゴンクエスト2 悪霊の神々』の著者は樋口明雄氏、イラストレーターは伊藤伸平氏です 。伊藤伸平氏は、後にエニックス版の『ドラゴンクエストIV』と『V』の挿絵も担当しています 。『ドラゴンクエストII』は、原作ビデオゲームがシリーズで初めてパーティ制を導入した作品であり、ゲームブック版でもその要素がどのように再現されたかが重要な点でした。ゲームブックというメディアは、文章による表現が主であるため、キャラクターの心理描写や人間関係、そしてオリジナルエピソードを自由に挿入する余地が非常に大きく、ビデオゲームでは描ききれなかったキャラクターの内面や背景を詳細に描写することが可能になりました。

 

ドラゴンクエストIII そして伝説へ…ゲームブック:勇者の系譜を辿る

 

ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』のゲームブックは、エニックスから1989年に上・中・下巻の全3巻構成で刊行されました 。これはエニックスが手掛けた初のゲームブックシリーズでもあります 。各巻は「上巻 勇者旅立つ」「中巻 伝説の宝珠を求めて」「下巻 決戦! アレフガルド」と題され、原作のビデオゲームが持つ壮大な物語を、読者が紙の上で追体験できるよう構成されていました 。

 

エニックス版『ドラゴンクエストIIIゲームブックの著者は早坂律子氏、構成は横倉廣氏、編集はエニックスプロダクツが担当しました 。物語は原作のビデオゲームの展開を忠実に踏襲しつつ、オルテガの死、不死鳥ラーミア復活のための宝珠探し、そして大魔王ゾーマとの最終決戦といった、原作の主要な要素が丁寧に描かれています 。

 

ゲームシステムは、シリーズの中でも比較的詳細に設定されていました。パーティは、勇者(男性)、僧侶ゼブル(男性)、魔法使いマニィ(女性)が必須メンバーとして固定されており、残りの1人はルイーダの店で戦士ハルク、武闘家チェン、商人トラン、遊び人ラルフ(いずれも男性)の中から選択することができました。ただし、4人目を加えずに3人パーティで冒険することも可能でした 。

 

しかし、このパーティシステムにはユニークな制約がありました。戦闘システムに直接関与するのは勇者一人だけであり、仲間キャラクターは戦闘には一切関係しないというルールです 。これは、紙媒体という制約上、複雑なパーティ戦闘や各キャラクターの行動選択を詳細に記述し、管理することが非常に困難であったためと考えられます。これは、戦闘のメカニクスよりも、物語におけるキャラクターの存在感や、プレイヤーの選択が物語のフラグに影響を与えるという、より広範な意味での「ロールプレイング」に焦点を当てた設計思想を示しています。

 

勇者にはレベルやHPが設定されており、敵を倒して経験値を得ることでレベルアップし、勇者の攻撃力、守備力、最大HPが上昇するシステムが採用されていました 。また、武器や防具も用意されており、装備することで攻撃力や守備力を高めることができました。町ではゴールドを支払って武器・防具・薬草を購入したり、宿屋に泊まってHPを回復させたりすることも可能です 。

 

戦闘は「勇者1人 対 モンスター1匹」で行われ、攻撃時にはページを適当にめくり、そのページの端に書かれた0から3の数値に攻撃力を掛け合わせ、相手の守備力を引いた数値がダメージとなる独自の計算式が用いられました 。途中で薬草を使ってHPを回復することもできます。勇者と敵が交互に攻撃を繰り返し、先にHPが0以下になった方が敗北となり、DEAD ENDとして指定されたシーンからやり直しとなります 。

 

さらに、「ポイントチェック」と呼ばれるフラグチェック欄が多数用意されており、フラグの有無だけでなく、記入した数値によって物語が分岐する場面が多く見られました 。誤った判断はDEAD ENDにつながることもあり、プレイヤーは慎重な選択が求められました。

 

ゲームブックドラゴンクエストのユニークな魅力

 

ビデオゲームとは異なる読書体験:想像力の拡張

 

ゲームブック版「ドラゴンクエスト」は、ビデオゲーム版とは一線を画す独自の読書体験を提供します。ビデオゲームのように精巧なグラフィックや臨場感あふれる音楽が用意されていないため、読者は文章から描写される情景やキャラクターの姿、モンスターの様子などを、自らの想像力で補完する必要があります 1。この「想像する楽しさ」こそが、ゲームブック最大の魅力であり、プレイヤーの心の中に無限に広がる世界を創り出すことで、ビデオゲームでは得られない深い没入感を生み出します 。

 

読者が能動的に物語に参加し、提示された選択肢を選び、サイコロを振り、そして「冒険の書」に自身の冒険の軌跡を手書きで記録するという一連の物理的な行為は、物語と現実が密接に結びつく独特の感覚を提供します 。このアナログなインタラクションは、デジタルゲームでは味わえない、よりパーソナルで触覚的な体験を読者に与えます。

 

多岐にわたる結末とリプレイ性

 

ゲームブックは、その構造上、複数の結末が用意されています。一つ以上の「グッドエンディング(勝利)」だけでなく、プレイヤーの選択や運によって到達する様々な「ゲームオーバー」や「バッドエンド(敗北)」が存在します 。

 

プレイヤーの選択やサイコロの出目によって物語の展開が大きく変化するため、一度クリアした後も、別の選択肢を試したり、未発見の隠されたルートを探したりと、繰り返し遊ぶ楽しさがあります 。特にエニックス版『ドラゴンクエストII』のゲームブックは、隠れた面白いシーンやアイテムが多数存在し、やりこみ要素が豊富であると高く評価されています 。この多岐にわたる結末と、それらを探索する過程が、ゲームブックの持つ高いリプレイ性を支えています。

 

オリジナル要素が加える新たな発見

 

ドラゴンクエストゲームブックシリーズの大きな魅力の一つは、原作のビデオゲームの世界観をベースにしつつも、ゲームブックオリジナルのキャラクターやシナリオ、エピソードを多数盛り込んでいる点です 。これにより、長年のファンであっても、新たな「ドラゴンクエスト」の世界を発見する喜びを味わうことができました。

 

特にエニックス版『ドラゴンクエストII』は、原作ゲームでは直接描かれなかった主役キャラクターたちの個性や人間関係、そしてオリジナルエピソードが「ゲーム版をも凌駕した」とまで評されるほど、その物語の深掘りが高く評価されています 。これは、ゲームブックが単なる原作の派生作品に留まらず、原作コンテンツの新たな魅力を引き出し、世界観を拡張するメディアとしての可能性を示しています。

 

ビデオゲームロールプレイングゲームにおいて「選択肢」が重要な要素であるという認識は広く共有されています 。ゲームブックは、その「選択」が物語の進行と結末に直接的に影響を与えるという、RPGの根源的な要素を純粋な形で体験させます 。ビデオゲームがグラフィックやサウンド、複雑なシステムでプレイヤーを没入させる一方で、その裏でプレイヤーの選択肢が限られている場合があるのに対し 、ゲームブックは視覚・聴覚情報が限定される代わりに、純粋に「文章を読む」「選択する」「記録する」という行為に焦点を当てます。これにより、物語の分岐点におけるプレイヤーの「意思決定」の重みが強調されます。この純粋なインタラクションは、ビデオゲームが提供する豊富な演出を剥ぎ取ったときに、RPGの本質が「プレイヤーの選択によって物語が紡がれること」にあるということを示唆します。ゲームブックは、そのシンプルな形式ゆえに、RPGの根源的な魅力をよりダイレクトに体験させることができ、ファンは原作の物語を新たな視点から深く掘り下げることが可能となるのです。

 

まとめ:今も色褪せない紙の冒険

 

ドラゴンクエスト」のゲームブックシリーズは、ビデオゲームの枠を超え、読者自身が主人公となり、知恵と運を頼りに物語を紡ぐ「参加型小説」としての独自の魅力を確立しました。双葉社版とエニックス版という異なる出版社からの刊行は、それぞれが原作の再現性やオリジナル要素の追加といった点で独自の価値を提供し、当時の読者に多様な冒険の形を提示しました。

 

特にエニックス版『ドラゴンクエストII』が高い評価を得たように、ゲームブックは単なる原作の追体験に留まらず、キャラクターの深掘りや物語の拡張を通じて、ファンに新たな発見と感動を与える可能性を秘めていました。手書きで記録する「冒険の書」やサイコロを使った判定など、アナログならではのインタラクションは、デジタルゲームでは得られない独特の没入感と、プレイヤーが物語を「私有化」する喜びを提供し、個々の冒険をよりパーソナルなものとしました。

 

これらのゲームブックは、当時のファミコンブームの中で、安価で手軽に「ドラゴンクエスト」の世界に浸れる手段として多くの読者に愛されました。そして今もなお、紙の上で繰り広げられる壮大な冒険として色褪せることなく、そのユニークな魅力を放ち続けています。