高速道路を走る際、カーラジオを「1620kHz」に合わせた経験は誰しもあるはずです。しかし、あの独特のノイズ混じりの音声案内が、今、大きな転換期を迎えています。NEXCO各社が進める「ハイウェイラジオの順次廃止」。本業で電源装置などの製品評価を担当するエンジニアの視点から、この決定がもたらす「安全の冗長性」への懸念と、私たちが備えるべき代替手段の本質をロジカルに分析します。

- 1. 1620kHzの終焉:なぜ今、ハイウェイラジオなのか
- 2. エンジニアが危惧する「アプリ移行」の3つのブラインドスポット
- 3. 代替手段の比較:radikoやワイドFMは「命綱」になり得るか
- 4. 結論:エンジニアが導き出す「最終評価」
1. 1620kHzの終焉:なぜ今、ハイウェイラジオなのか
ハイウェイラジオ(誘導無線方式)は、路肩に設置された空中線から微弱な電波を出すことで、走行中の車両にのみピンポイントで情報を届ける優れたシステムでした。しかし、設備の老朽化と保守コストの増大、そしてスマートフォンの普及という時代の波には勝てなかったようです。
ここで注目すべきは、単なる「古い技術の廃止」ではなく、「放送(プッシュ型)」から「通信(プル型)」への完全移行が行われようとしている点です。
2. エンジニアが危惧する「アプリ移行」の3つのブラインドスポット
NEXCOは「i-Highway(アイハイウェイ)」などのアプリへの移行を推奨していますが、製品評価に携わる者の目線では、以下の3つのリスクが浮き彫りになります。
- 認知負荷の増大: ラジオは「選局」だけで済むが、アプリは「起動・操作」を伴う。運転中のUXとしては明らかに後退している。
- 通信の不確実性: 災害時のトラフィック輻輳(ふくそう)や、山間部・トンネル内でのデッドゾーンにおいて、放送波ほどの堅牢性は担保されているか?
- Fail-Safe(フェイルセーフ)の欠如: スマホのバッテリー切れやOSのフリーズが発生した際、第2の通報手段・情報受領手段が失われる。
3. 代替手段の比較:radikoやワイドFMは「命綱」になり得るか
「radikoでいいのでは?」という意見もありますが、技術的に見れば不十分です。radikoには数秒から数十秒の遅延があり、高速走行中の「この先、落下物あり」という即時性が求められる情報には致命的なラグが生じます。
また、ワイドFMも放送エリアが広すぎるため、ハイウェイラジオのように「今、この区間だけの規制情報」をピンポイントで得るには適していません。現在のインフラにおいて、1620kHzが持っていた「局所性」と「リアルタイム性」を完全に代替できる手段はまだ存在しないのが現状です。
4. 結論:エンジニアが導き出す「最終評価」
ENGINEER'S FINAL VERDICT
■ 本質的リスク
「プッシュ型放送」という物理的な情報の多重化(冗長性)が失われることで、災害時のリスク耐性が低下する。
■ 代替手段の評価
利便性は向上するが、「即時性」と「認知負荷」の面で課題が残る。完全な代替には至っていない。
■ ユーザーが取るべき「Fail-Safe」
- i-Highwayの音声通知設定を「出発前」に完了させる
- 広域情報を拾える「物理ラジオ」を車内に常備する
- 通信に頼らない「目視による標識確認」の意識強化
「1620kHz」のノイズが消えた後に来るのは、真の利便性か、それとも情報の空白か。私たちは今、その分岐点に立っています。