「神奈川県」と聞くと、横浜や川崎といった賑やかな都市の顔を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、実はこの都市のすぐ隣には、驚くほど豊かで多様な「農」の世界が広がっているのです 1。都市化が進む中でも、豊かな森林や田園風景が残り、多彩な農畜産物が育まれています 1。神奈川県は農地面積こそ全国で45番目と広くはありませんが、人口は全国2位を誇り、その大都市近郊という立地を活かして、特に野菜や果物の生産に力が注がれています 4。
この神奈川の農業の質の高さを象徴するのが、「かながわブランド」という制度です 5。これは、県内で生産される農林水産物やその加工品の中で、統一された生産・出荷基準を守り、一定の品質を確保しているものだけが登録されるもの。令和6年5月現在で74品目128登録品があり、まさに神奈川の農産物の実力の証と言えるでしょう 6。太陽をモチーフに、神奈川の海、山、大地の産物を表現した「かながわブランドマーク」は、品質へのこだわりと、消費者とのふれあいを大切にする心の表れなのです 7。
この記事では、そんな神奈川県が誇る特選農産物の中から、特に物語性豊かで、一度は味わっていただきたい逸品を厳選してご紹介します。地元で愛され続ける伝統の味から、革新的な新品種まで、その魅力と背景にあるストーリーを紐解いていきましょう。
神奈川ブランドの輝き:一度は味わいたい特選農産物
まずは、「かながわブランド」にも認定されている、神奈川を代表するスター農産物からご紹介します。その品質の高さと個性豊かな味わいは、まさに神奈川の農業の実力を物語っています。
三浦のだいこん - 歴史を刻む冬野菜の王様
神奈川の冬を代表する野菜といえば、やはり「三浦のだいこん」でしょう 5。その品質と味わいで知られ、「かながわブランド」にも登録されています。主な産地は三浦市と横須賀市で、三浦半島の温暖な冬の気候と水はけの良い土壌が、美味しいだいこんを育みます 5。
「三浦のだいこん」と一口に言っても、実は歴史的な変遷があります。かつて主流だったのは、大きくてずっしりとした白首の「三浦大根」でした。この伝統的な三浦大根は、肉質がきめ細かく、煮崩れしにくいため煮物やおでんに最適で、漬物にしても風味が良いとされ、特にお正月料理には欠かせない存在でした 8。しかし、栽培に手間がかかることなどから生産量が減少し、現在では年末の3日間だけ出荷される希少な高級品となっています 8。
昭和50年代の終わり頃からは、より栽培しやすく扱いやすい青首大根への転換が進み、現在「三浦のだいこん」として流通しているものの多くはこの青首系です 5。この青首だいこんは、辛味と甘みのバランスが絶妙で、水分をたっぷり含んでいるのが特徴 5。生でサラダに、じっくり煮込んでおでんや煮物に、またシャキシャキ感を活かして漬物にと、幅広い料理で楽しめます。切り干し大根や割干し大根といった加工品も人気です 5。
栄養面では、ビタミンCやカリウム、食物繊維が豊富。また、辛味成分であるイソチオシアネートや消化酵素のジアスターゼ(アミラーゼ)も含まれています 8。ビタミンCや一部の酵素は熱に弱い性質があるため、栄養を効率よく摂るには生食もおすすめです 8。
伝統的な品種を特別な日のために少量生産しつつ、現代のニーズに合った品種を主力とする「三浦のだいこん」のあり方は、農業が伝統を守りながらも経済性や栽培の効率性を追求する、一つの姿を示していると言えるでしょう。
湘南ゴールド - 神奈川育ちの黄金色の柑橘
鮮やかな黄色い見た目からレモンのようにも見えますが、一口食べればそのイメージは覆されるはず。爽やかな香りと上品な甘さが口いっぱいに広がる「湘南ゴールド」は、神奈川県が誇るオリジナルの柑橘です 1。もちろん「かながわブランド」にも登録されています。
この「湘南ゴールド」は、神奈川県農業技術センターが12年もの歳月をかけて開発した品種 12。香りが良い「黄金柑(おうごんかん)」と、手でむきやすい「今村温州(いまむらうんしゅう)」というみかんを掛け合わせて誕生しました 13。2003年に品種登録された、比較的新しい柑橘です 14。
主な産地は県の西部地域で 1、旬は3月から4月頃 12。温州みかんよりやや小ぶりな80gほどの大きさで、皮が薄く手で簡単にむけ、中のじょうのう膜(袋)も薄いのでそのまま食べられます 1。糖度は12度前後と高く、酸味とのバランスも絶妙です 13。
おすすめの食べ方は、やはりそのまま生で。その芳醇な香りを活かして、ジュースやゼリー、グミ、ドロップ、バウムクーヘンといったお菓子、さらには料理の風味付けにも使われます 15。皮をすりおろして使うと、料理が一層引き立ちます 15。
栄養価としては、ビタミンCが豊富で疲労回復や風邪予防に良いとされています 16。特筆すべきは、皮の内側の白い筋やじょうのう部分に多く含まれるフラボノイド成分「ナリルチン」。これには花粉症やアレルギー性鼻炎を抑制する効果があると言われており、「湘南ゴールド」には他の柑橘に比べて果実で2~4倍、果皮では6~8倍ものナリルチンが含まれているという研究結果もあります 21。エネルギーは約45kcal/100gです 22。
足柄牛&葉山牛 - 神奈川が誇るプレミアム和牛
神奈川県には、その品質の高さで知られる代表的な牛肉ブランドがあります。「足柄牛(あしがらぎゅう)」と「葉山牛(はやまぎゅう)」です。
足柄牛は、「かながわブランド」にも認定されている逸品 5。足柄上郡大井町や山北町、中井町、秦野市、小田原市など、自然豊かな足柄地域で育てられています 5。品種は黒毛和種とホルスタイン種の交雑種 23。その肥育方法には特徴があり、育成前期の子牛の時期に、地元の特産である「足柄茶」の粉末を配合飼料に加えて与えています。これにより、カテキン効果で内臓器官が強化され、健康で艶のある牛へと成長すると言われています 23。また、ミネラル豊富な丹沢水系の湧き水を飲んで育つのも美味しさの秘訣です 23。肉質はきめ細かく、しっとりとした食感。赤身と脂身のバランスが良く、脂にくどさがないのが特徴で、美しい霜降りと豊かな香りが楽しめます 23。ステーキやしゃぶしゃぶ、すき焼き、焼肉など、様々な料理でその美味しさを堪能できます 5。牛肉は一般的にタンパク質、鉄分(特に吸収の良いヘム鉄)、亜鉛、マグネシウムなどが豊富です 27。
一方、葉山牛もまた、神奈川を代表する高級和牛として名高いブランドです 1。三浦半島の葉山町、横須賀市、三浦市で肥育される黒毛和種で、肉質等級が4等級以上のものだけが「葉山牛」として認定されます 30。生産者は、米や豆腐粕、加熱処理した穀類などを自家配合したオリジナルの飼料を与えるなど、品質向上のために並々ならぬこだわりを持っています 30。その結果生まれる牛肉は、甘みがあり、非常に柔らかい肉質が特徴。特に脂身は融点が非常に低く、手のひらに乗せただけで溶け出すほどで、とろけるような食感が楽しめると言われています 30。しゃぶしゃぶにして、まずはシンプルに醤油だけで味わうのが、肉本来の甘みと風味を堪能するのにおすすめです 31。
「湘南ゴールド」のような新品種の開発や、「足柄牛」「葉山牛」といった高品質なブランド牛の育成は、限られた農地の中で高い付加価値を生み出し、都市部の消費者の多様なニーズに応えようとする神奈川県の農業戦略の表れと言えるでしょう。特に、足柄牛に足柄茶を与える、葉山牛に米や豆腐粕を配合するといった独自の飼育方法は、単なるマーケティングに留まらず、実際に肉の風味や質に影響を与えることを目指した、畜産技術への深い理解に基づいた取り組みです。
伝統と革新の味:神奈川ならではのユニークな農産物たち
「かながわブランド」の輝きに続いては、豊かな歴史やユニークな栽培ストーリーを持つ、神奈川ならではの農産物をご紹介します。これらは、地域の食文化や人々の知恵、そして農業への情熱を今に伝える貴重な宝物です。
のらぼう菜 - 川崎の飢饉を救った伝統野菜
川崎市を中心に栽培されている「のらぼう菜」は、神奈川の伝統野菜の一つです 1。その歴史は古く、川崎市多摩区菅地区では約800年も前から栽培されてきたと言われています。かつては油を採るために栽培されていましたが、農家は自家採種して自家用として作り続けてきました 32。特筆すべきは、その強い生命力。江戸時代の大飢饉の際には、多くの人々の命を救ったと伝えられています 32。
アブラナ科の野菜でありながら、特有の苦みやえぐみが少なく、ほのかな甘みと柔らかな食感が特徴。主に花茎(トウ)を食べます 1。平成12年頃には、地元の篤農家であった故・髙橋孝次氏が、主茎を摘心して脇芽を何度も収穫する栽培法を確立し、収量増加に貢献しました 32。
主な産地は川崎市北部(菅地区を含む)や小田原市で、旬は春先の2月下旬から4月下旬 1。収穫後は傷みやすいため市場にはあまり出回らず、主に農家の軒先や農産物直売所で販売されています 32。
「かながわブランド」にも登録されており 32、その保存と普及には「菅のらぼう保存会」や市民団体「かわさきのらぼうプロジェクト」などが尽力しています 32。また、地元ではのらぼう菜を使ったカステラや豆腐などの商品開発も行われ、川崎市内の学校給食にも登場するなど、地域に深く根付いています 32。
定番の食べ方は、素材の風味をシンプルに味わえる「おひたし」 32。その他、和え物や炒め物、ベーグルサンドの具材やキムチなど、様々な料理に活用されています 32。栄養価も高く、ビタミンA(β-カロテン)、ビタミンC、鉄分、食物繊維などが豊富です 34。
津久井在来大豆 - 相模原の「幻の大豆」
相模原市緑区の千木良(ちぎら)周辺(旧津久井地域)で古くから栽培されてきたのが「津久井在来大豆」です 1。一時は輸入大豆の台頭により栽培面積が激減しましたが、「津久井在来大豆を守ろう」という地域の取り組みによって、その貴重な種が守り継がれてきました。しかし、生産量は依然として少なく、「幻の大豆」とも呼ばれています 1。
6月下旬から種をまき、10月下旬から11月にかけて収穫されます 37。特徴は、なんといってもその大粒で強い甘みと、深いコクのある味わい 1。
その風味を活かして、豆腐や味噌、きな粉を使ったお菓子、納豆糀漬け、ドレッシングなど、様々な商品に加工されています 1。しかし、生産者の方々が口を揃えておすすめするのは、まず「蒸し大豆」として、そのものの美味しさを知ってもらうこと 38。大豆本来の甘みと豊かな風味をダイレクトに感じられる食べ方です。もちろん、煮物やサラダ、スープの具材としても絶品です 38。畑の肉とも呼ばれる大豆はタンパク質をはじめ栄養豊富で、蒸し大豆は栄養を効率的に摂れる調理法でもあります 39。
幻の平塚クリマサリ - 栗より勝る?!希少なさつまいも
「栗より味が勝る」ことからその名がついたと言われるさつまいも、「クリマサリ」。平塚市大野地区で特産として栽培されており、その希少性から「幻のさつまいも」とも呼ばれています 11。令和3年8月には「かながわブランド」にも登録されました 40。
1960年頃から市内で栽培されていますが 41、栽培適地が限られる(砂状の土質を好む)こと、細長い形状で皮が薄く、深く根を張るため収穫に手間がかかること、そして一般的なさつまいもに比べて収量が少ないことなどから、栽培農家は減少傾向にあります。さらに、栽培地域の市街化も栽培適地の減少に拍車をかけています 40。そのほとんどが製菓会社などに卸されるため、市場にはあまり出回らないことも「幻」と言われる所以です 41。
旬は8月下旬から10月中旬頃 41。蒸かせばホクホクとした食感で、名前の通り栗のような上品な甘さが特徴です 40。
この希少なクリマサリの栽培を続ける農家の一人に、平塚市出身の笹尾さんという方がいます。大学時代に郷土史を学んだ経験から、「昔からある食べ物を作り続けたい、いろんな人に知ってもらいたい」という思いで、手間のかかるクリマサリの栽培に取り組んでいます 40。また、規格外とされる小さなサイズも、味が変わらないという理由から出荷し、フードロス削減と地産地消を推進しています 40。JA湘南甘藷部会では、良質な苗の確保や栽培技術の向上・継承にも力を入れています 41。
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おすすめの食べ方は、油との相性が抜群なため、天ぷらや素揚げにするとサックリとした食感が楽しめます。また、細めのものを皮ごと味噌汁に入れたり、蒸かしてマッシュし、砂糖とマーガリンを混ぜて簡単なスイートポテトにするのも美味しいです 40。
「のらぼう菜」や「津久井在来大豆」、「クリマサリ」といった伝統野菜や希少品種の物語は、単に農産物の話に留まりません。それらは地域の歴史や文化、そして人々の想いを乗せて今に伝えられています。これらの品種が直面する課題(輸入品との競合、栽培の難しさ、流通量の少なさなど)を乗り越え、その価値を未来へ繋いでいくためには、「かながわブランド」のような認証制度や直売所を通じた消費者との繋がり、そして何よりも私たちの関心と応援が不可欠なのです。
かながわ育ちの新品種:未来を彩る期待の星
神奈川県では、伝統を守るだけでなく、新しい美味しさを追求する取り組みも活発です。神奈川県農業技術総合研究所などを中心に、時代に合った魅力的な新品種が次々と開発されています 14。ここでは、その一部をご紹介しましょう。
かなこまち(いちご) - 神奈川いちご界の新星
神奈川県農業技術センターが育成した期待のいちご新品種「かなこまち」。食味の良い「紅ほっぺ」と、収量性が高く大玉の「やよいひめ」を交配して誕生しました 44。2020年に品種登録出願され、令和6年11月に登録されたばかりの新しいスターです 14。
特徴は、鮮やかな赤色の果皮と、中まで赤い大玉の果実。糖度が高く、酸味とのバランスも絶妙で、ジューシーな食感が楽しめます 44。収穫時期は12月下旬から4月頃。神奈川県産の新しい美味しさとして、今後の広がりに期待が高まります 45。
湘南一本(ねぎ) - 甘さと柔らかさを極めた一本
「湘南一本」は、神奈川県農業技術センターと篤農家の野路稔氏が共同で育成したねぎの品種で、平成19年8月に品種登録されました 14。
その最大の魅力は、なんといっても甘くて柔らかい食感。煮ても焼いても鍋物にしても美味しく、軟白部は白く艶があり、締まりも良いのが特徴です 47。耐暑性・耐寒性にも優れ、特に霜に当たると甘みと柔らかさが増すと言われています 47。従来の「湘南ねぎ」に比べて葉折れが少なく、生産しやすさも向上していると評判です 49。
その他、注目の神奈川育ちの新品種たち
- 湘白(しょうはく)(だいこん): 農業技術センター、野路稔氏、横浜植木株式会社の三者共同で育成された白首だいこん。平成27年6月登録 14。肉質がしっかりしていて煮崩れしにくく、おでんや煮物に最適。生食でも甘みがあり、パリパリとした食感が楽しめます。葉も毛じが少ないため、味噌汁の具や炒め物にも利用できます 50。9月中下旬まきの年内どりが最も特性を発揮します 50。
- サラダ紫(なす): サカタのタネと共同開発された、生食向きのなす。平成21年3月登録 14。果汁が滴るほど多汁質で、りんごのようなサクサクした食感。糖含量も多く、切った後も変色しにくいのが特徴です 52。
- なつみず・香麗(なし): 「幸水」よりも早く収穫できる早生・極早生のなし。「なつみず」は8月上旬~中旬、「香麗」は7月下旬~8月上旬が収穫期で、どちらも大玉で食味良好です。平成24年10月登録 14。お盆前の贈答需要にも応えられる品種として期待されています。
- 十郎小町・虎子姫(うめ): 「十郎小町」は小田原市梅研究会との共同育成で、5月下旬から収穫できる極早生品種 14。一方、「虎子姫」は「南高」の自然交雑実生から選抜され、核が非常に小さく果肉割合が高いのが特徴で、梅干し加工に適しています 14。両品種とも平成26年3月登録。
これらの新品種の開発は、単に新しいものを作るというだけでなく、神奈川の気候風土に適し、消費者の嗜好に合い、そして生産者にとっても栽培しやすい品種を生み出すことで、地域農業全体の競争力を高めようという長期的な戦略の表れです。特に、地元の農家や種苗会社と連携して開発を進めるケースは、地域に根ざした農業技術の発展を象徴しています。
神奈川の味覚を求めて:特産品に出会える場所と楽しみ方
さて、これら神奈川自慢の農産物は、どこで手に入れ、どのように楽しむことができるのでしょうか。
加工品も魅力いっぱい!
神奈川の豊かな農産物は、そのままでももちろん美味しいですが、その魅力をさらに引き出した加工品も数多く存在します。「湘南ゴールド」を使ったお菓子やジュース 17、「三浦のだいこん」の漬物 5、「のらぼう菜」のカステラや豆腐 32、「クリマサリ」の芋焼酎やパイ 41、「津久井在来大豆」の味噌や豆腐 1 など、枚挙にいとまがありません。中井町では、「みかんラーメン」や「小生姜の佃煮」といったユニークな加工品も生まれています 58。これら加工品は、旬の時期以外でもその土地の味覚を楽しむことができる素晴らしい方法です。
ここで買える!神奈川の味
- 農産物直売所(ファーマーズマーケット): 新鮮な旬の野菜や果物を手に入れるなら、やはり直売所が一番です 1。JAはだのが運営する「じばさんず」は、1000軒以上の農家が出荷する県内最大級の直売所で、野菜だけでなく加工品や花の苗なども豊富に揃っています 62。JA湘南の「あふり~な」比々多店・伊勢原店も、地元の消費者や行楽客に人気のスポットです 60。多くの直売所では、生産者の顔写真が掲示されていたり、直接話を聞けたりするのも魅力の一つです 61。
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- かながわブランドサポート店: 「かながわブランド」登録品をはじめとした県産品を積極的に扱う販売店や飲食店です 5。県内に多数あり、公式サイトなどでリストを確認できます 6。
- 観光農園・農家レストラン: 収穫体験ができたり、採れたての食材を使った料理を味わえたりと、農業をより身近に感じられる場所です 66。
イベントで楽しむ神奈川の農!
各地で開催される農業まつりや収穫祭、フェアなども、神奈川の農産物に触れる絶好の機会です 84。鎌倉市の「秋の収穫まつり」85 や、JAが主催する各地の農業まつり 86、綾瀬市の「あやせ産業まつり」87 など、旬の味覚を堪能できるイベントが盛りだくさんです。
神奈川県におけるこれら多様な販売チャネルや体験型施設の充実は、「地産地消」を単なるスローガンではなく、具体的な行動として県民に届けるためのしっかりとした基盤が整っていることを示しています。これは、生産者と消費者を繋ぎ、地域農業の魅力を多角的に発信する重要な取り組みと言えるでしょう。また、伝統的な漬物から「みかんラーメン」のような斬新な商品まで、幅広い加工品の開発や、農園野菜を活かしたネパールカレーを提供するレストランなど、農業分野における6次産業化の試みは、生産者の経営多角化と地域ブランドの価値向上に貢献しています。
神奈川の味覚をギュッ!おすすめ特選農産物
品名 (Product Name) | 主な産地 (Main Production Area) | 特徴・魅力 (Characteristics/Appeal) | 旬の時期 (Season) | おすすめの食べ方 (Recommended Way to Eat) |
三浦のだいこん (Miyura Daikon) | 三浦市、横須賀市 (Miura, Yokosuka) | 甘みと辛みのバランスが良く、みずみずしい。煮崩れしにくい伝統品種も。 | 11月~3月 (冬大根) (Nov-Mar for Aokubi, late Dec for traditional Miura Daikon) | サラダ、煮物、漬物 (Salad, simmered dishes, pickles) |
湘南ゴールド (Shonan Gold) | 県西地域 (Western Kanagawa) | 爽やかな香りと上品な甘さ、手でむける手軽さ。 | 3月~4月 (Mar-Apr) | 生食、ジュース、お菓子作り (Fresh, juice, sweets) |
足柄牛 (Ashigara Beef) | 足柄地域 (Ashigara area) | 足柄茶育ちのきめ細かい肉質、しっとりとした食感。 | 通年 (All year) | ステーキ、すき焼き、焼肉 (Steak, sukiyaki, yakiniku) |
のらぼう菜 (Norabo-na) | 川崎市、小田原市 (Kawasaki, Odawara) | ほのかな甘みと柔らかい食感、えぐみが少ない伝統野菜。 | 2月下旬~4月下旬 (Late Feb-late Apr) | おひたし、和え物、炒め物 (Ohitashi, aemono, stir-fries) |
津久井在来大豆 (Tsukui Zairai Daizu) | 相模原市緑区 (Midori Ward, Sagamihara) | 大粒で甘みが強く、コクがある「幻の大豆」。 | 10月下旬~11月 (Late Oct-Nov) | 蒸し豆、豆腐、味噌 (Steamed beans, tofu, miso) |
幻の平塚クリマサリ (Phantom Hiratsuka Kurimasari) | 平塚市大野地区 (Ohno district, Hiratsuka) | 栗より勝ると言われるホクホクした食感と上品な甘さ。 | 8月下旬~10月中旬 (Late Aug-mid Oct) | 天ぷら、焼き芋、スイートポテト (Tempura, baked sweet potato, sweet potato desserts) |
かなこまち (Kanakomachi Strawberry) | 県内各地 (Various areas in Kanagawa, where adopted) | 大粒で中まで赤い果肉、糖度と酸味のバランスが良い新品種。 | 12月下旬~4月 (Late Dec-Apr) | 生食、デザート (Fresh, desserts) |
おわりに:神奈川の農業の魅力、再発見の旅へ
これまで見てきたように、神奈川県の農業は、都市のイメージからは想像もつかないほど奥深く、多様な魅力に満ちています。歴史ある伝統野菜から、情熱をかけて開発されたブランド品、そして未来を担う新品種まで、そこには生産者の想いと地域の物語が息づいています。
地元で育まれた食材を味わうことは、単に美味しいものを食べるというだけでなく、その土地の文化や歴史に触れ、生産者を応援することにも繋がります。神奈川県では、都市化や担い手不足といった課題に直面しながらも、「かながわ農業活性化指針」のもと、スマート農業の導入や地産地消の推進、新規就農支援などを通じて、魅力ある農業を次世代に繋ごうという力強い動きがあります 3。私たちが地元の農産物を選ぶことは、緑豊かな環境の保全や地域経済の活性化、そして豊かな食文化の継承にも貢献するのです 97。
ぜひ、この記事をきっかけに、お近くの直売所を訪れたり、「かながわブランド」の逸品を試したり、農家レストランで採れたての味覚を堪能したりと、神奈川の農業の魅力を再発見する旅に出かけてみませんか。きっと、あなたの日常に新たな彩りと感動をもたらしてくれるはずです。神奈川の農業は、都市と共存しながら独自の発展を遂げる、まさに現代における地域農業の一つの理想形を示しているのかもしれません。